杜の木漏れ日

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植木屋の道

むかしむかしの話。
20代の頃、役所の打ち合わせで現場を見に行った。
ここは芝生にすると言われて見た場所は、排水不良で水浸しになる所だった。
「この状態では芝を張っても良くなりません。」と言うと、「(業者は役所の)言うことを聞いていればいいんだ」的な言葉が返ってきた。
言うことを聞いて枯らせば、それは業者の責任になり、信用を落とすことに繋がる。
その前に、良くならないとわかっていることに無駄なお金を掛けることに納得できなかった。
役人の言うことを聞き、今この仕事を受けて一時のお金をいただくことに甘んずるか、植木屋として言うべきことを言い、将来の信用を取るか。
ここで妥協すれば、自身のふるさとに一生悔いが残るヘタな仕事を残し、植物の命を無駄にすることになる。
それをやったら植木屋で無くなるし、そんなことをするためにこの道を選んだのではない。
植木屋だから、言うべきことを言う方を選んだ。
役所の人はきっと、くそ生意気な若造だと思ったことだろう。
芝生は砂利敷きに変更になった。


分譲地の公園植栽を請け負ったこともあった。
時々現場を見に来る役所担当者や幹部級は、勤務中にタバコを吸い、そこに捨てて行く。
自分の町に、自分でごみを捨てて行く役人にとても腹が立った。
そんな時代だったが、そんなことが嫌で嫌でしょうがなかった。
黙って吸い殻を拾い、担当課長に完了報告をしに行った時にその話をした。
「うちは現場禁煙でやっています。なぜあなた方は現場でタバコを吸い、そこに捨てるのか。この分譲地を購入し、念願のマイホームを建てた家族が、庭に花を植えようとして吸い殻が出てきた時の顔を思い浮かべてください。あなた方は、誰のために仕事をしているのですか?」
仕事をいただいている身でありながら、またしてもくそ生意気なことを言った。
でもこの課長さんは立派だった。
二回りも年下の若造に、「おっしゃる通り」と頭を下げてくれた。
役所にも、話の分かる人はいるんだなと思った。


建設会社の下請けで、自然公園の植栽をしたこともあった。
打ち合わせで下見に行くと、いただいた設計図面には、寒冷地で育てない樹種が載っていたり、既存の自然樹木林の下に桜の列植が計画されていたり、景観との調和や樹木の生長が考慮されていなかった。
これでは良くなれないと、樹種や植栽配置の変更を申し出た。
「よし分かった。役所に話してみる。」
下請けの言い分を聞き入れて、役所に掛け合ってくれた元請けさんの心意気が嬉しかった。
樹種や植栽配置は変更になった。


若い時でも今でも、植木屋として、正しいことは毅然と言うことにしている。
そして、誠意と敬意をもって話せば、必ず伝わると思っている。
相手が役所であれ元受けであれ上司であれ、市長であれ議員であれ大学教授であれ建築家であれ、金や植物の命を無駄にし、世のため木のためにならないことには、断固として指摘し、相手を説得する。
植木屋にしかわからないことだから、植木屋として質す。
植木屋にしかできないことだから、植木屋として言う。
後悔するとわかっている仕事はしない。
役所の指示だからと、後で言い訳をするような仕事はしない。
自分の未熟で失敗したら、役所の検査が通ったとしても、直させてもらう。
自分の町に、信用を問われるような仕事は残さない。
それが植木屋の責任であり、ここで仕事をすることだと思っている。


経営や付き合いを優先して良心と誇りを捨てれば、植木屋の信用も捨てることになる。
ブツ切りの依頼が来たとして、それをそのまま受ければ、役所には信用されても、市民からは信用されない。
そんな会社に、若者が入りたいと思うか。
枯れたら植え替えればいい。それが儲けになる。
役所はお客さんだから逆らわない方がいい。
そんなことを言う上司の元で、若者は修行したいと思うか。
大志を持ってこの道を選び、門を叩いてくれる若者たちに、誇りの無い仕事をさせられるか。
そんな業界に、若者は入ってきたいと思うか。
そんな業界が、世の中から信用されるか。
だから植木屋として、誤ったやり方にはとことん抵抗し、正しい方法を提案する。
これは、自分が若者だった時も今も変わらない。


厳しい世の中で生き抜いていくことは難しい。
難しいけれど、生き抜いていくためにも、信用は大切。
そのためにも、専門者として言うべきことは言い、やるべきことをやる。
それが、植木屋としての自分の生きる道。

Comments 3

福岡  

Re: Re: 庭師様へ(追伸)

お盆前の慌ただしさも過ぎ、気持ちも落ち着いてきましたので、あらためてお返事をいたします。
植木屋としてのあり方とか公の仕事について書いた時など、同業匿名の方から否定的なご意見をいただくことがあります。今回の記事は、共感いただいた方々がFACEBOOKでシェアされたりなどしたことから、より多くの方の目に触れたようですが、否定的なコメントはやはり、匿名の利くブログのほうがしやすいようです。最近、こうしたことが続いておりますが、賛否ともども受け止めて、真摯にお答えしていきたいと思います。

さてこの記事では、主として公共仕事のあり方についての自分の思いを書きました。きれいごとに聞こえるかもしれませんが、公の仕事は役所の人のためでも業者のためのものでもなく、市民万民のための仕事です。私は個人の作庭仕事をする所で修業したこともあって、公共工事というものを良く知らず、木を植え、手入れすることについては公共も個人の庭も関係ないと思っているため、仕事の完成度を含め、普段の庭仕事と同じようにでやっています。
個人庭では、元請けが建築の時もありますが、樹木が健康になれないような要求が来れば意見提案します。これは、植木屋なら当たり前のこと。庭は、建築の人のためではなくそこで暮らすご家族のため、健康な庭の将来のために庭をつくるので、相手が役所でもそれは同じことです。
個人邸の施主さんにタバコのポイ捨てを注意したりはしませんが、現場で役所の人のそうした行為を見かけた時は、今でも注意します。立場上、工事は役所から仕事を受けてやりますが、役人も業者も、市民のために仕事をしているという点では同じで、市民のために仕える役人や業者が市民の暮らす街にごみを捨てることは許されない。同じく市民に仕える者として、おそれながらも、注意させていただきます。
役所からは、仕事でなくても、樹木についての相談を受けることがあります。造園を含む担当工事について建設会社さんから相談を受ける時もあり、そうした時には造園の専門者としてアドバイスをしていますが、これは、自分が工事を請けた時でも同じです。契約書には、発注者と受注者は対等であることが明記されており、設計や仕様に無いことでも、必要と思われることについては、役所と業者が協議の上、予算内であれば、ある程度の修正や追加をすることもできます。また、入札などの際も、事前説明の際に質問することはできると思うので、業者として認められている権利を行使し、合法的に話をする機会はいくらでもあると思います。私は地元のことしか知りませんが、全国でもそうなのではないでしょうか。

下請けとして入った時など、役所や設計者と直接話ができない時もありますが、そうした時でも、元請けさんを通して意見提案はしていますし、元請けさんの側が役所に連れて行ってくれる時もあります。この仕事をしていればわかると思いますが、紙の上でつくった設計書と現場では違うので、設計通りに行かないことがよくあり、現場対応や現場合わせということが必ず出てきます。建築や土木の設計士、あるいは県外業者が造園設計している時などもありますが、樹木の成長や土地の気候を知らない設計には不備が多いので、そうしたことを専門の立場で、現場で修正していく。そして、そのために役所と話をする。それだけのことで、そのことには何の問題もありません。
そうした現場対応のことを、こちらの方に書いていますのでご覧ください→「植木屋にできることhttp://konohanoniwa.blog61.fc2.com/blog-entry-884.html」。

庭師さんは、契約のルールについて言っていると思いますが、役所の仕事には、随意契約という、入札を行わない発注制度もありますね。東京都江戸川区の街路樹管理などは、プロポーザルで業者を選び、1年間の試行で基準を満たす仕事をした業者には5年間の随意契約が結ばれるそうですが、役所と業者がどうすれば街の緑が良くなるのかについて話し合いの場を持ち、役所の側から業者が気軽に提案できるような雰囲気を作っているようです。役所という組織は上下関係が絶対ですが、江戸川区では、若手職員が提案しやすいような雰囲気も作っており、役所の中も業者との関係も、とても風通しが良いように感じています。実際に視察してきましたが、そうした体制が整っている所は、緑がとてもよくなっています。

今はあまりありませんが、昔の役所などは親方日の丸的な対応がよくありました。私がそんな中でも話していったのは、親方は役所ではなく市民で、施主が誰であれ、樹木が良くなれるためのことをするのが植木屋だと思っているからです。
私がこの記事で何を言いたかったのか、それは、役所も植木屋も、お互いの協力の元、共に街を良くするための仕事をしようという、当たり前のことです。役所は役所で、業者は業者で、いろんなしがらみがあってそれができにくい世の中ですが、やってできないことはない。

『言うは一時の勇気、言わずは一生の後悔』。
ダメ元でも言ってみれば木が良くなれる。万に一つでもそんな可能性があるのなら、勇気を出して言ってみようではないか。今回の記事では、もしかしたら将来、流されかけているかもしれない自分に対して喝を入れる意味でも、そんなことを書き留めておこうと思った次第です。

庭師さんへのお答えになっているかどうかわかりませんが、私から言えるのはこんな所でしょうか。
もしお会いする機会がありましたら、今度はお酒でも飲みながらお話ししましょう。それでは、良いお盆をお過ごしください。

2016/08/15 (Mon) 06:46 | EDIT | REPLY |   

福岡  

Re: 庭師様へ

はじめまして。ご訪問ありがとうございます。
この記事は「戯言」というカテゴリーに入れてあるように、私の思いを書き綴った独り言です。志を忘れて流されそうになる自分への戒めとして書いている場合もあり、そうした、自身に向けた記事に対してコメントをいただけるとは思わず、少々驚いているところです。

お申し越しの件ですが、踏み込んだ内容について、ここでお話しをすることは控えさせていただきます。
もしお知りになられたければ、件の現場や担当部署にご案内しますので、直接お聞きになられてください。
ただ、記事には20代の頃のことと書いてあるように、これらのことは20年以上前の話です。
その間、市町村合併等で体制が大きく変わっており、当時の状況がわからなくなっている場合もあるかと思いますので、その旨、ご承知おきください。
お近くであれば私の方から出向きますが、あなた様は岐阜県岐阜市周辺の方とのこと(ブログ管理者にはコメント投稿者の『IPアドレス』が届きます)、それも難しい話ですので、メールであればお話しすることも可能です。
その場合は、ご氏名社名等、連絡先をご明記いただいて、お問い合わせくだされば幸いです(下記アドをクリックするとHPが開きます。トップの最下部からメールに入れます)。
また、私はあなた様のことを全く存じ上げません。もし、HPやブログ、facebookなどをご活用の場合は、併せてお知らせください。
私は、意見性の強い発言ほど実名で話すべきとの考えのため、お互いに素性を明らかにした上でお話しすることを望みます。
この度はコメントいただきまして、ありがとうございました。

※戯言のカテゴリーには、「匿名で書くこと」という記事もあります。
よろしければ、こちらもご覧ください→http://konohanoniwa.blog61.fc2.com/blog-entry-957.html

2016/08/14 (Sun) 07:36 | EDIT | REPLY |   

庭師です  

No title

いつも勉強になりありがとうございます。
秋田にもし「談合」があれば、この記事は台無しですが、そこらへんは大丈夫でしょうか?
お役所仕事と言われていますが、堂々と記事を書かれる資格があるか問いたいです。ファンの一人としてガッカリしたくありません。

2016/08/13 (Sat) 18:55 | EDIT | REPLY |   

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