杜の木漏れ日

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木「蔭」雑考

kokagezattkou.jpg     (東京国際フォーラムの木蔭)

いまさらながら、「木蔭」という言葉を辞書引きしてみると、たいがいの辞書には「木のかげ。樹木やその枝葉が日光をさえぎっ ている所。」などと出てくる。

そして、「木蔭」の「蔭」の字は、「蔭」ではなく『陰』になっている。
拙ブログはこの間まで、「紅の葉の木蔭」というタイトルだったけれど、「陰」ではなく『蔭』を使っていた。
これは、植物が作る「かげ」にはやはり、「草冠」が付く『蔭』がふさわしいと思っていたからだ。

2017 3月

そんな中で、3月に、地元紙にこんな寄稿をしていた。
「冬に夏の木陰を考える」というこのタイトル、原稿では「木蔭」としていたのに、記事になったら『陰』だった。
この字に対する思いがあり、意味があっての『蔭』。
納得いかなくて理由を考えてみたら、おそらくこれは、「蔭」という字が常用漢字になっていないということなのだろう。

話戻って、「陰」と「蔭」の意味をよく見てみると、「蔭」は、数多くある「陰」の意味の中の一つの言葉となっている。
でも、「蔭」にあって「陰」に無いのが、「他人の助け。おかげ。」という意味。
だからこそ、人に助けられていると感じた時などは、『お蔭さま』という言葉を使うのだろう。
街路樹の人」のサブタイトルは『雪かきも落ち葉掃除もおたがいさま 木蔭で涼めたらおかげさま』になっているが、暑い夏は、人が樹木の木蔭から助けられているから、樹木にも、『お蔭さま』の気持ちを持ってあげたい。


◇『木陰に臥す者は枝を手折らず』
辞書には、「木陰」を使ったことわざとして、こんな言葉が付されていた。
これは、涼しい木陰で休んでいる人はその木の枝を折ったりしないことから、「恩を受けた人に仇で返すようなことをしないのが人情」とか、「恩人の厚意を踏みにじってはならない」という意味なのだそうだ。

枝を折ってしまうのは、恩を恩だと感じていなかったり、その恩に甘えてしまっていることもあるだろう。
その時に自分が気持ちよければそれでいいとか、自分の利益や出世のために利用するとか、そこには、そうした身勝手な気持ちがあるのかもしれない。
意図的に枝を折れば確信犯になるが、悪気が無いのに、自分の行為や些細な言動が相手を傷付けたり、あまり喜ばしくない感情を抱かせている時もある。
自分も、舞い上がっている時や上り調子の時など、人に対する配慮が欠けてしまうことがある。
そんな時にはこの言葉を思い出し、胸に手を当て、謙虚な言動を心掛けたいと思う。

「人に良くしてもらったら、他の人に良くしてあげなさい。」
これは、時々子供に言うことだが、人に良くする人は、自分も人から良くされたことがあり、それを他の人に返している。
そしてそんな人は、恩着せがましくせず、人に良くしたことの見返りを求めない。
樹木が言葉を発しないように、それを口に出すこともない。
良くしたことで人から裏切られたり逆利用されたりしても、そこに文句を言うこともないだろう。
だからこそ、恩を受ける側は恩を与えてもらっていることに気付き、その恩を世のため人のために活かさなければならない。
恩人が望むのは自身への見返りではなく、そうした『善の連鎖』で世の中が良くなることなのではないか。

『木陰に臥す者は枝を手折らず』
この言葉を目にして、そんなことを考えさせられた。

百花 (2) 百花 (1)

◇ここまできて、「恩人」という言葉があるのなら、『恩樹』もあってもよいのでは?と思ったが、これは辞書には載っていなかった。
ちなみに「恩人」とは、「情けをかけ、力になってくれた人」という意味。
「百花春至為誰開」という禅語にあるように、植物は誰の為でもない、自分が生きる為に花を咲かせる。
芽が出て花が咲き、実がなって葉が落ちる。
この樹木の自然の営みを、樹木が人に掛けてくれている情けだと思えれば素敵。
新緑の息吹の躍動を、木が自分を励ましてくれているのだと思えれば素晴らしい。
そう思えれば、身近な樹木の存在が、『恩樹』に思えてくるだろう。

◇木蔭をつくってくれるのは樹木だが、樹木も初めから、「恩」を感じさせてくれるような木蔭をつくれるわけではない。
そこには、木蔭のできる木を植えてくれた先人と、今、その樹木を大切に育んでくれている人、そして、そんな木々を愛でてくれる人がいる。
そんな人たちがいて初めて、樹木は人々に「情け」を掛けられる。
『恩樹』を生み出すのは人だということだ。
そんな、『恩樹』を創りだす人が増えれば、樹木の側も、人を『恩人』だと思うかもしれないな。

「恩樹」という言葉は無いが、ここに何度も書いているうちに、PCが「恩樹」を覚えてくれたらしい。
そんなことを嬉しく思う雨の朝,恵みの雨だから、これは恩雨か。

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(木陰で涼む人)