杜の木漏れ日

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これでいいのだ

テレビアニメでは、植木職人として登場する天才バカボンのパパ。
この『バカボン」は英語の『バガボンド(Vagabond)』から来ているらしく、「放浪者」とか「さすらう人」という意味がある。
原作でのパパは定職を持っていないようだから、さながら、「自由人」ということになるのか。

そのバカボンパパの口癖で有名なのが、「これでいいのだ~」。
テレビの主題歌では、『西から上ったお日様が東へ沈む~』に続いて「これでいいのだ~♪」となるが、ふざけているようでいて、実は哲学的な言葉ではないかと思っている。
天動説が絶対の時代に『地球は回っている』と唱えたガリレオや、『桜切るバカ』の常識を覆したといわれる弘前公園然り、この歌は、世のなかに絶対はない、とか、当たり前だと思われていることが間違っている時もある、という、コミカルな歌のようでいて、実はメッセージソングなのかもしれないと思ったりもする。

ここで、実生活の中で、どんな時にこの言葉を使っているかを考えると、『これでいいのだ』は、自分の考えや行為に自信が無ければ言えない。
この言葉を言えるようになるには、何百何千の「これでいいのか?」があり、その積み重ねの上に成り立つ言葉。
「これでいいのか?」は、置かれた環境に対する違和感であったり、身の回りで起きていることへの疑義であったり、仕事や学習の中で感じた疑問や矛盾であったり、自分自身の生き方に対する問い掛けであったりと様々。
そしてそんな自問は、自分が成長進化するための過程の始まりでもある。

「これでいいのか?」と思えば、では何がよいのか、どうすればよくなるのかの答えを、自分が納得するまで探すだろう。
一生懸命探すと、やがて同じ疑問を持つ人や、疑問を克服した先人との出会いがあり、それが自分の答えを見つけるヒントになる。
探すことは「学び」であり、そこで得たものを自身の中で消化すると、そこからまた新たな疑問が生まれてくる。
そしてまた学んで問い、その繰り返しの中で自分の考えが形成されていく。

そんな試行錯誤を経て初めて、「これでいいのだ~」となれるのだろう。
自問自答の繰り返しは学びの旅であり、答えを探すための放浪の旅。
バカボンが「バガボンド」から来ていることも、案外そんなことだったりして。

ただ、「これでいいのだ」は、目の前のコトを見過ごし、行動する勇気を持てない自分を納得させる時にも使う。
または、正義の志で行動しようとする人を止める時にも使うだろう。
自身に沸き立つ「これでいいのか?」を抑え込み、それに向き合おうとしない「これでいいのだ」は、どちらかというと後ろ向き。
現状維持は安定でもあるが、保身でもある。
自問は前に進むためのものだから、殻や壁を乗り越えて突き進みたい。


10年前、そんな「これでいいのだ」が蔓延していることに嫌気がさして、積りに積もった「これでいいのか?」を吐き出す機会があった。
それが、『庭鏡の中の自分』という専門誌への寄稿だった。
植木屋の仕事の中で湧いた矛盾や疑問の中でもがき、自分が進むべき方向を模索していた頃に書いたもの。
この時これがあったから、これではいけないと思っていた状態から抜け出せた。
そして、今でもこの時の思いはブレていないし、新たな『これでいいのか?』も常にある。

安穏としていると、『これでいいのか?』は見えないが、真剣に向かうほど、その存在は大きくなる。
向かうことには大きなエネルギーが要り、相応のリスクも伴うが、それでも「これでいいのだ」になるために向かっていく。
向かわなければ後悔するが、向かった道でも、思いが適うとは限らない。
それでもその道が善ならば、世のため人のためになることならば、いつかきっと適う。
適うまで頑張れば、いつか『これでよかったのだ」という答えにたどり着く。


先月今月と、大学生のインターンシップや見学があり、若い方々と話す機会があった。
みな意識が高くて、すでに「これでいいのか?」を経験していた。

「これでいいのか?」には、悩み苦しむことが付きまとう。
ただこの葛藤は、殻を突き破るための打開に向かっているという証。
苦しみの先には希望があり、殻を破る前とは違う自分がいる。
殻を破るために動き、それを突き破った人にだけ、殻の外の世界が見える。

そんな行動のきっかけが、日々の中で感じる「これでいいのか?」。
「常識を疑って掛かれ!」という言葉もある。
何が正しいのかは、後になってみなければわからない。
問題意識が自分を高め、本質を突き詰める行動が常識を打ち破る。
志ある若き魂に触れ、そんな思いを新たにすることができた。

前途洋洋たる若者たちの未来。
漕ぎ出した船は小さくても、大海をさ迷っても、自分の羅針盤が確かなら必ず目的地にたどり着く。
袖すり合うも多生の縁。
若者たちの将来が、『これでよかったのだ』になることを願う。

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流れる雲や水も、いつか目的地にたどり着く