fc2ブログ

秋田県能代市で作庭を行う福岡造園のブログです。 日々の仕事や活動等の最新情報を載せていきます。

ゼニゴケ発生の考察と対処2~原因を探る~

2021年11月08日
土の手入れ
yz2

一年ぶりに訪れた庭では、苔の様相がまた変化。
作庭以来はじめて、ゼニゴケの発生が見られました。
この苔はジメジメした所によく生えますが、彼らが好むのは、多湿や酸性土、水はけの悪い所、そして日陰。
もしかしたら、何らかの原因で、庭の環境がそうなってきているのかもしれません。

yz2.jpg

こちらは、今年の6月に行った水はけ改良の土壌調査。
赤枠部分がゼニゴケですが、側面は塀下のコンクリート基礎、下部に砕石の転圧層があり、雨水が浸透できずにいました。
芝庭なので日当たりはいいですが、表土が常に湿気を持った状態が芝生を弱らせ、ゼニゴケの発生を招いたようです。
硬い砕石層を壊して通気管(浸透管)を埋設すると、ひと月後には芝生が蘇生しました。
これは、芝生の生育に適した環境になったということで、逆に言えば、ゼニゴケが住みにくい場所になったということです。
※参照 塀際の浸透改善 完成後の点検と浸透改善の成果

yz2 (5)

ということで、そのための応急措置。
ゼニゴケのある箇所にバールで穴を開け、既存の古竹を通気管として設置、ご家族にお手持ちの木炭や軽石を詰めていただいて、しばらく様子を見てもらうことにしました。
ある程度の効果は見込めると思いますが、この時頭をよぎったのが、以前に応急で竹筒を埋めた時、泥の侵入で機能不全となり、直しに出かけたこと
次回の訪問が翌秋になることを思うと、春の雪解けや梅雨時が心配になります。
これまでなんともなかったのが急にこうなったのはなぜか、
なにか予兆があったのではないか、
こうならないためにはどうすればよかったのか、等々、
原因と対策を考えるために、作庭時からの状況を振り返ってみることにしました。

yz2 (6)

写真は、既存樹の移植が終わり、整地をしたところ。
昔は川だった所なので浸透性が高く土質も肥沃、適度に傾斜する既存庭の地盤が按配よく、地なりに園路を作っていくことにしました。

yz1.jpg

そこに延段ができて、周囲を整地。

yz2 (8)

完成時の表面排水の流れ。
平らな所はなく、水は縦横に流れても、最終的には手前に集まるように仕上げていました。

yz2 (9)

白い線の所が、庭の中で最も勾配の緩い所。
それが、苔が盛り上がるにつれて水の流れも弱まり、雨が多い時はたまりやすくなっていたのかもしれません。

yz2 (12) yz2 (13)

2020年(左)の写真を見ると、芝生が剥げ掛かったり土がむき出しになっている所があり、その部分はゼニゴケが生えた場所とほぼ一致。
おそらく、これが前兆でしょう。
苔は安定した所に生えます。
苔が剥げるのは、苔が落ち着けないような不安定な状態が起こったということで、ここで考えられるのは、地表水の動きの活発化。
強雨が多く、地表面を水が流れたりたまったりなどの満ち引きが頻繁だったのではないかと思います。

yz2 (10)

2021年のアップ。
地盤にも延段にも、緩やかな勾配が付いていますが、これでは足りなかったということでしょう。

yz2 (11)

延段のある個所の断面図。
赤丸がゼニゴケのある箇所で、庭全体の表面排水が良好に機能していれば、建物前に設けた浸透桝へと排水されます。
おそらく、ゼニゴケが生えた部分は表面排水の流れが止まった所。
その原因は、延段と土留が平行に並んだことやその工法、周囲の地形等が複合的に関係しているように思います。

延段の右側はもともとの地盤で高く、左側は既存樹を移植して盛土をした部分。
延段は山と山の間の谷底部にあり、歩行路の沈下防止のために底部を転圧し、小石をモルタルで固定したという一般工法でした。
この地形から表面排水の流れを見ると、左右の山から流れてくる水が延段にぶつかって止まり、谷部の最も低い所の地盤が硬いために、周囲に滞水が起こったのではないかと考えます。

yz2 (14)

ただ、同じような地形は自然界にもあり、水は硬い岩盤の上を流れています。
相応の勾配と水量があれば、水はとどまらずに流れるということです。

yz2 (19)

奥入瀬渓流。
延段は地盤よりも高いので、渓流が島によって分岐しているこの地形の方が近いでしょうか。
分流すれば水の勢いは弱まりますが、それでも周囲の樹々が元気なのは、酸素を動かすだけの水量があるということです。

yz2 (16)

では、作庭時にどんなことをしていればこの状態を防げたのでしょう。
2020年の内露地の状態を再掲します。
赤線部が、表面排水が滞っていると思われる所。

yz2 (1)

同じく2020年の外露地です。
こちらは硬化剤を一切使わずに仕上げてあり、枯れ流れの始点となる蹲踞には自然浸透桝が埋設されて、地表や地中の水がそこに吸収される仕組み。
枯れ流れは周囲より20㎝程度低く、これは空堀であり開渠、地表面の水と、流れ底よりも高い部分の地中水がここに排水されて下方へと導かれます。
水は高きから低きに流れる。
外露地には水の流れを止めるものが無く、自然に、地下へ下方へと水が流れるような構造になっているのが、今も先住苔が繁栄し続けていることの理由でしょう。

yz2 (4) yz2 (3) yz2 (18) yz2 (21)


今度は、この5年間に行った他の庭の造成から解決策を探ります。
ゼニゴケ発生の原因を硬化剤の入った土留と延段が二重に表面排水を止めていることだと仮定すると、それを防ぐには、土留めや石畳に隙間を作ることが必要で、
石の間を水が通れるような石積みにする、
裏込めに浸透力の高い軽石を使う、
延段は厚い石で組み、底材を軽石にする、
石が連続する延段ではなく間の空く飛石にする、
等の方法が思い浮かびます。

ただ、この土留や延段の素材や形状は必要性があってのもの。
全てをやり直すと庭の雰囲気が変わってしまうので、できれば現状のままで効果的な改善を行いたい。
ということで、土留めや延段の周囲に浸透管を設け、風通しと水通しを良くしようというのが結論です。

関連記事
FUKU
Author: FUKU
福岡造園HOME
福岡造園のfacebookページ

五感で楽しめる暮らしの庭、創った庭から民謡や童謡が聞こえてきそうな、土地の風土と共にある庭を目指しています。

※記事中の写真や図の二次使用はご遠慮ください。