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秋田県能代市で作庭を行う福岡造園のブログです。 日々の仕事や活動等の最新情報を載せていきます。

自然と庭のはざま

2023年06月18日
作庭紹介
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『作庭の痕跡を消す(作為を消す)』。
庭づくりはご家族の夢を叶えることだと思っていますが、そこに至るまでに、施主様とはいろんな話をします。
会話の中から庭のヒントが生まれ、コンセプトができていくのですが、打ち合わせでご家族からお聞きしたのが、弊社の作例でご覧になったというこの言葉でした。
「庭=作るもの」なので、『作為を消す』のは相反すること。
矛盾するようでいて、限りなく自然に近づけたいとか、人為を感じさせたくないという思いで臨んでいると、いつしかそんな意識になっていきます。
これは作り手側の意識ですが、そこに心を留められる方は初めてだったので驚きました。

タイトルの『自然と庭のはざま』は、この記事を書き進める中で降りてきたものですが、きっと作庭中は、無意識のうちにも、「作為(庭)と無作為(自然)の間」を行ったり来たりしていたのでしょう。
「はざま」は『間』のことですが、言葉を変えれば『繋ぎ』。
里から山へ、山から谷へ、森から野へと繋がるのがこの庭の構成です。
里にいながら、山や谷にいながら、森や野にいながら、移り変わる景色と風情を楽しむ。
はたして完成した庭は、そんな空間になっているでしょうか。
それでは、散策してみましょう。

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庭の起点から。
土壌改良で出た余剰土で起伏をつくっていますが、アップダウンがあれば山と谷。
山と谷なので、山の木や山野草を植えています。

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アオダモのトンネルと、石を避けて曲がる道。
「作る」意識でいると「石を食い込ませる」ですが、山道は石や木を避けて通すという感覚です。
もっと言えば、ここでは一つの大きな岩盤が侵食されて凹凸ができ、凸は岩として露頭した状態。
凹に土がたまって木が生えて森になったというようなイメージです。

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露頭する岩盤の山道を登る。
そんな風情を、このむくりのある石が醸し出してくれます。
3歩分の石は、飛石4個分の重さ。
でもこれだという石と出会った時は、不思議な力が出るものです。

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登れば降りるのが山道。
20㎝程度の段差でも、沢の雰囲気が感じられます。
木を植えたおかげで、路面に葉影が降りてきました。

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わずかな水面でも、水の動きがあると楽しい。
ここには水琴窟が仕込まれていて、浅い水面に染み出た水がこぼれると、地中で音を奏でます。
樹木周りには深さ1.3mの通気管が数本入っていますが、その穴に落ちた雨や地中の水も管内で共鳴しているとご家族から聞きました。
これは全く意図していなかったことなので、正真正銘の「無作為」。

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メイン部分の全景。
樹木が背後をやわらかに遮蔽し、秘密の空間のような居心地になります。

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室内から。
土壌改良で地盤が30cmほど高まり、植栽スペースに傾斜ができました。
斜面にはやはり、根曲がりの木でしょう。
自社圃場で育った実生のヤマモミジが斜上し、背景の目隠しとなっています。

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雑木の株越しに見る景色。
落雪を受ける雪国ではなかなかできない植栽ですが、家付きに木があることで遠近感と森の雰囲気が増してきます。

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建物との繋ぎ。
飛石ではなく、岩盤が割れた雰囲気で。
砂利や砕石は土中から出た発生材。
表土が雨で剝げ、その下の岩盤が風化すれば砂利になるという、そんなイメージです。
縁先手水のような棗型の鉢は既存の鉢カバーを転用したもので、石裏に水を汲み入れると水琴窟が鳴るという仕組み。

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山道の途中にある石のベンチ。
周囲と同化するよう、露頭した岩が風化して割れたというふうに、数個の石を組み合わせています。
これもまた、作為を見せない工夫の一つ。

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ベンチに腰掛けると、この景色が見えます。
木蔭の下で佇んでいると、聴こえるのは葉擦れの音と地中の響・・・。

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雑木の森の後ろにはジュンべりーを植えています。
デッキからつまんで食べるという、そんな楽しみも持たせました。

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完成の頃に咲き出した紫陽花の花。
別名は「七変化」、花言葉は『家族団欒』です。
落葉樹と山野草が多いこの庭は、花や葉の移り変わりを間近で体感できます。
庭がご家族の団欒の場となることを願い、庭の散策を終えます。


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FUKU
Author: FUKU
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