庭181号
今号は「庭師 安諸定男の流儀」と「楽しい暮らしの庭」の特集。
安諸さんの作られた庭は、知人を通して何度か見せていただいたことがある。
伝統を重んじながらも既成概念に捉われない、遊び心あふれた楽しい庭づくりをされる方。
本当に素晴しい作品ばかりでため息が出た。
安諸さんの流儀の一つ、そこにあるものや廃材、土地の素材を庭に活かすという点には非常に共感を覚える。
まだお会いしたことは無いが、ダジャレが大好きという点でも、大いに尊敬している(笑)。
庭の解説は安諸さんの聞き書きのような感じで、非常に読みやすく親近感を覚える。
解説の最後には必ず、作庭に参加したスタッフの名前も連ねられているところに、人を大事にされる優しい心、みんなの力で創り上げたのだという気持ちが伝わってきて、そんな所にも感動した。
解説の一節、「経験を重ね場数を踏み、作る度に後悔する部分が減っていき、同時に高い次元での悩みも増えてくる。庭づくりは、それでいいんです。」
そんなことを痛感している最近、心に染みる言葉だった。
「見習いの頃は仕事ができなくて随分と悔しい思いもした。不器用だからこそ、人の2倍3倍練習した。」
器用な人はすぐ物を覚えるのであまり考えない。
不器用な人ほど、一つの物と接する時間が多く、いろいろ考えるから、思いが深まる。
そんなことの繰り返しが、誰にもまねの出来ない安諸流を生み出したようだ。
うちのスタッフにも是非、この本を読むことを勧めたい。
もう一つの特集、「楽しい暮らしの庭」には、自分のHPでもリンクさせていただいている、東京の作庭者、藤倉陽一さんが登場。
実際にお会いしてそのお人柄に触れているせいか、今回の掲載は我がことのように嬉しい。
本当に、おめでとうございます。
庭園解説のタイトルは、「制約こそ、庭の形を生む源」。
庭づくりは、敷地の形態、施主の要望、周囲の環境や気候、建物との関係、予算など、様々な制約をクリアして出来るものだ。
そして、その制約があるからこそ、作庭者の創意工夫が生きる。
制約があるのは苦しいけれど、それを乗り越えて形に表せた時は、それこそ歓喜の極み。
そんな制約を創意工夫で形にし、安諸さん同様、その家にあるものを大切に庭に活かされる藤倉さんの仕事には、その作庭センスはもちろん、優しさあふれるその人間性にも感動を覚える。
さりげなく、庭にブリキのバケツを使われていたのを見て、ハッとした。
藤倉さんが大切にされる、空気感が伝わる庭。
「作庭私論」で語る「植栽前夜は不安と期待で眠れない。」という言葉が心に残った。
武蔵野の雑木林の雰囲気を庭に表現される藤倉さんの植栽は、優しく、自然味にあふれ、まるで森の中にいるような安心感がある。
その安心感の裏には、夜も眠れぬほどの作庭者の苦闘がある。
植栽は、本当に奥が深い。
作り込まれた庭に疲れを感じる昨今、藤倉さんの庭や考えは、庭の本質をあらためて考えさせてくれる。
私も何度か寄稿したことのある「街路樹は泣いている」のコーナーは、今号でパート9。
今回は愛知県稲沢市の方が、「悲しい裸の材木」というタイトルで、悲しい姿になった街路樹を紹介、街路樹はどうあるべきかという私見を述べられていた。
わが街能代は木都と称されるほどの木材産業の街だが、木都であることを象徴するかのように、街には裸の材木と化した街路樹が立ち並んでいる。
編集後記に「人に人格があるように木にも木格がある。」という言葉を見つけ、いい言葉だなと思った。
作る庭には作庭者の人格が表れるとはよく聞く話だが、自然との共生や緑の街づくりを掲げながらも、木の生理も木格も無視された悲惨な姿は、そこに暮らす我々市民の人格を反映しているようにも見える。
人間は人格を無視されれば怒るが、木は怒れないし動けない。
動けない木をそこに植えたのは人間。
それでも木たちは懸命に生き、今年も芽吹き、花を咲かせ、人間のために酸素を供給してくれる。
自然(樹木)との共生とは、人間の都合を樹木に押し付けるのではなく、芽吹いて花が咲き、実がなって葉が落ちるという樹木の当たり前の営みをそのまま受け入れることだと思っている。
共生は、強制であってはいけない。
街路樹が悲惨な姿になるのは、ほとんどが住民の落ち葉の苦情。
樹木との共生の意味を今一度考えてみたい。
木格を尊重した街づくりが出来れば、街は本当の意味での緑の街になれる。
木を木らしく街に存在させ、木格を感じさせる街路樹が増えれば、街は自然と風格ある都市へと変貌するはずだ。
風の松原と並ぶ能代の誇り、ケヤキ公園の姿が、それを証明している。
あのような風格ある巨木の存在感は、そこにいるだけで人の心を打つ。
巨木は時間の積み重ね。
風格を作るには時間と愛情が必要。
木や街の格を上げていくのは、そこに住む我々市民の愛情の積み重ねでしか築けない。
そして、築くための気付きを行政や市民に伝えていくのが、我々植木屋の務めでもある。
もっと街の木たちを、優しい心で見てあげよう。
あらためて、そんなことを思った一冊。

ケヤキ公園 能代市
※藤倉さんのHPはコチラです。http://www.fujikurazouen.com/