さくらフォーラムに参加して その2

本日の北羽新報に「下」が掲載されました。
原文と写真は以下です。
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さくらフォーラムに参加して ―桜日本一の弘前の技に学ぶ能代方式のあり方― 下
自然樹形を維持するための剪定法を「透かし」と言います。この剪定法の対極には「刈り込み」という方法がありますが、これは人口樹形の木に対して行うやり方で、街路樹などの大きな落葉樹には適さないやり方です。


(刈り込み剪定によるイチョウ 左 枝先を残した透かし剪定によるイチョウ 右)


(刈り込み剪定の枝先 左 透かし剪定の枝先 右)
弘前ではリンゴなども透かしで行われていますが、リンゴの剪定技術を活かした公園の桜もまた、この方法で行われています。透かしは、枝先を切り詰めずに枝で抜いていくというやり方で、枝や幹の付け根で切っていくという方法ですが、秋田県内の公共樹木の剪定などを見ると、その「付け根」がどこであるのか、幹と枝の分かれ目や大枝と小枝の分かれ目がどこであるのかを正しく理解し、適正な位置や角度で剪定されている例を見ることは非常に少ないと感じています。


(「付け根」を意識しない切り方 左 カルスの早期再生を考えて「付け根」を意識した切り方 右)
私自身、20年以上前から透かしを行っていますが、付け根がどこかを意識し始めたのは10年ぐらい前のことで、それまでは剪定後の樹木をより自然に見せるために切り口が見えない角度で切ったり、幹や枝の線をきれいに見せるために、太い枝を幹から落とす時なども幹に合わせて真っ直ぐに切ったりしていました(このやり方を「フラッシュ・カット」と言います)。それが、樹木医が採用するCODIT論に接してからというもの、自然状態で枝枯れした幹の付け根や切り残した枝が腐朽している様子など観察、自分の剪定法が木の生理に適っていないことに気付きました。


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(自然淘汰による枝枯れを観察すると、枯れが止まっているラインが適正な剪定位置であることが解かる。このラインで剪定することにより樹皮(カルス)が均等に巻き、切断による幹の再生を早めることが出来る)
またそれまでは、多少切り口の角度が悪くても殺菌剤を塗ればすむと思っていたような所もあり、これもまた大きな誤りであることがわかりました。剪定の際、腐朽防止や樹皮の再生促進のために殺菌剤や癒合剤を塗ることがありますが(弘前では特殊配合の殺菌癒合剤を使用)、今回あらためて樹木医さんに聞いてみたところ、この殺菌剤の効果を上げるためにも適正な剪定角度での切断が重要とのことです。
この方法は剪定で切断された切り口を木自身の再生力によって早く塞ぐためのもので、剪定によって外から侵入してくる腐朽菌をブロックする防御層(幹や枝の付け根にある)を守るための剪定法です。透かし剪定できれいに仕上がったと喜んでいたら、実は深く切り過ぎていて、木が自分で腐りを防ごうとする防御層を破壊していたということがよくあるのです。



(フォーラムで紹介された適正な剪定位置と角度。オレンジの線が剪定ラインを示す)
自然淘汰による枝枯れは徐々に進行していくので木に腐朽菌に対抗する時間を与えてくれますが、剪定は木に予告なく突然に行われることから、木が腐朽に対処する時間を与えません。木にとっての剪定は、突然敵から闇打ちを受けるようなものなのです。能代の街路樹にもようやく透かしが取り入れられてきましたが、この付け根を意識した剪定を取り入れれば、より木の生理に配慮した本質的な剪定を行えます。このやり方は「切り残し」を許しません。付け根から1センチでも枝が残っていればそれは切り残しです。切り残しとはブツ切りのことを示しますので、もし行政が発注する剪定仕様書にこの仕様が盛り込まれることになれば、能代市内の公園樹や街路樹のブツ切りは完全に無くなります。樹木を健全に維持し、市民の安全を守るためにも、行政にはぜひ取り入れていただきたい仕様です。
フォーラムの講演では、今後の桜管理のあり方として、市民との協働管理の実例なども紹介しておりました。全国には、地域の人たちが身近な桜を誇りと思い、自分たちで管理する体制が出来ている所もあるとのこと、また、そのためのより良い管理を行うために、弘前城公園の樹木医さんなどから指導を仰いでいるとのことです。市民奉仕の桜管理で大切なこととしては、活動がレベルアップしていくことを考えること、やったことの評価が見える形にする、地域の宝だということを確認する、予算が無いことで進める行政の「協働」推進の口車には乗ってはいけない(笑)、ということでした。
昨年の本紙に、住民の要望を受けた行政からの要請で業者が奉仕剪定を行ったという記事がありましたが、私は行政が業界にサービスを求めているようにも見えてあまりいい印象を持てず、こんな時にこそ「協働」でやればいいのではないかと思いました。剪定は業者、交通整理や枝かたづけは行政、掃除を町内会などと分担して行えば、街路樹管理なども協働で出来ると思うのです。
業者の剪定作業では、技術のある職人が交通整理やかたづけをしている場合もあり、この協働作業で行えば腕のある職人さんたちがみな木に登れることになり作業も捗ります。市内の街路樹はかなりの広範囲に渡りますから、その街路の剪定仕様が決まっているなら、その地域にいる植木屋さんでもボランティアに参加出来ると思うのです。
可能なら、街路を歩行者天国にして、市民向けの街路樹剪定講習会を行ってみてもいいでしょう。黒松街道の松のように、市民が技術を覚えれば行政の負担も少なくなるのではないでしょうか。剪定だけでなく落ち葉掃除なども行えれば街路樹への苦情も少なくなり、街の木を地域の宝として愛する機運もさらに高まっていくのではないかと思います。
剪定は木に掛かる負担を軽減しなければなりませんが、沿道に住む住民の方々の負担を軽くしてあげることも大切です。役所の口車に乗るのではなく、業界から、町内会から、街の緑を愛する市民から、市民の側から行政に呼び掛けていったらどうかと思います。桜に限らず、街の緑は市民みんなの宝物です。市民総庭師となって街の緑を守っていくことが、日本一の弘前方式を超える「能代方式」になるのではないかと考えています。
追記 3月1日発売の隔月刊誌「庭」(建築資料研究社)に、「街路樹は微笑む」というタイトルで能代の街路樹への取り組みが紹介されています。この本は、市立図書館で閲覧できます。
二ツ井町 緑の景観を考える会 福岡 徹
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