「桜プロフェッショナル」に学ぶ樹木管理の基本 (地元紙掲載記事)
2013年09月05日

本日の地元紙(北羽新報)に拙文が掲載されました。
下記に原文と写真をご紹介します。
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「桜プロフェッショナル」に学ぶ樹木管理の基本 ―緑の基本計画策定元年にすべきことー
一昨年昨年と、市文化会館の歩道の桜並木をお借りし、桜日本一で有名な弘前方式の剪定法を実演する見学会を開きました。弘前公園の桜管理を指揮する樹木医さんは、今春、NHKの「プロフェッショナル」でも紹介され、5月23日付本紙の渟城雑記「桜切らぬバカ」でも取り上げていましたので、関心を持たれた方も多いと思います。ここ数年、弘前市主催の桜フォーラムに参加し、直接公園まで出かけて教えていただきましたので、私も感慨無量の面持ちでテレビを見ていました。
「桜切るバカ」ということわざは、腐りの入りやすい桜の木をむやみに切ると木が傷むという戒めですが、弘前方式はこの「桜切るバカ」の定説を覆し、枝を切ることで桜を良好管理しています。切れば腐る木を切るということは一見矛盾していますが、そこが弘前が日本一と呼ばれる所以で、どのような切り方をすれば木が腐りにくく木にダメージを与えないかということを知っているからできるのです。
弘前城の桜は全体的に樹高が抑えられていますが、これは、津軽伝統のリンゴの樹形を参考にしています。ソメイヨシノの大敵であるテングス病は剪定によって病害枝を取り除きますが、この病気は高い位置の枝先に付きやすいことから、樹高が高くなると作業が困難になります。列植された並木など、木と木の間隔が比較的近い所では隣り合う木の枝が競合し(枝同士が接触することで伸びる方向を変える)、上へ上へと伸びることからますます除去しにくくなります。樹高が低く横枝を張らせた弘前の桜は人が登って作業しやすい樹形になっているため、安全な作業で効率も良いという、非常に頭の良いやり方です。また、隣同士の枝を交互に伸ばしていることから枝が接触せず、枝を伸ばせるだけ伸ばしています。この方法は枝数を多く残せることから、開花期にボリュームある花の姿を楽しめるのです。
こうしたことを剪定によって行うのが弘前方式ですが、この元となるのが「CODIT理論」と呼ばれるものです。桜に限らず、街路樹や公園樹などの落葉高木は「透かし」という枝抜きによって自然樹形を維持しますが、透かしは幹と枝、太い枝と細い枝の付け根で切っていきます。この付け根の位置や角度を教えてくれるのがこの理論で、これを意識して剪定することで、木を腐りから守り、切口の組織を早期再生させてあげることができるのです。
樹木医が採用する理論なので科学的な剪定法に思われがちですが、弘前が特別なことをしているわけでもなくて、これは、樹木の自然状態の枝枯れや切口がふさがる様子を観察していれば、一般の方でも容易に理解できることです。自然の理に即したやり方であることから「ナチュラルターゲットポイント」とも呼ばれますが、この方法は弘前公園や十和田市、角館の桜などで行われ、桜以外でも、横浜市では街路樹のイチョウなどにも適用、剪定仕様書にも明記しています。
このCODIT理論による剪定法はブツ切りを許さないやり方であるため、能代市の街路樹が二度とブツ切りに戻らないための最良の方法でもあり、市が方針とする「木の生理と景観に配慮した自然樹形管理」の核となるべきものです。このことは、一昨年の市長対談で提案していますが、理論の検証が必要とのことで先送りされています。
昨年の市議会でも、市の花が桜になったことを受け、桜の適正管理を先進地に学んだらどうかとの一般質問がありました。答弁では弘前のフォーラムや能代市内で開催された弘前方式の剪定講習会に職員を派遣したとの実績報告がありましたが、実際の樹木に活かさなければ意味がありません。街路樹、公園の木ともブツ切りが再発してきている中、歯止めを掛けるための早急な対策が望まれます。
先日、市に改めて弘前方式の剪定法の導入を求めたところ、これには、「市民の意識の高まりが必要」とのことでした。冒頭の剪定見学会のテーマは「先進地に学ぶ樹木剪定の基本」でしたが、基本を学ぶことに市民意識の高まりなど全く関係なく、これは管理者としての当然の責務です。能代市緑の基本計画が策定された今年、この剪定法の導入を真剣に考え、本腰入れた緑の保全を行っていただければと思います。
能代市二ツ井町 福岡 徹
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