杜の木漏れ日

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外苑の呪縛

外苑1 (2)

この間のブログで、神宮外苑のイチョウ並木を紹介しました。
円錐形の大きなイチョウが4列に並ぶ姿は壮観で、フランス整形式庭園を思わせるような景観です。

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こちらは、外苑見学の後に寄った埼玉県久喜市役所前のイチョウ並木。
昨冬、街路樹の視察で訪れた際、 市役所前のイチョウ並木がとても柔らかな樹形をしていたことから、今度は葉のある状態を見てみたいと思ったのです。

久喜市は全国初で街路樹条例を策定した自治体として有名です。
昨年は久喜市議団が能代の街路樹視察に訪れましたが、現在、久喜市では管理指針の作成に着手するなど、適正管理に向けて意欲的な取り組みが行われているようです。
久喜市ではHPなどでも街路樹の説明を行い、市民理解を広めるための啓蒙を行っていますが(HP記事)、このリンクに出てくる「いちょう(久喜地区)」の写真が市役所前のイチョウ並木です。

再開を楽しみにしていたイチョウですが、その後に剪定されたらしく、今回は円錐形に変わっていました。
久喜市では、能代市と同様に自然樹形管理を方針としていますが、能代もそうであるように、いろいろと試行錯誤の段階なのかもしれません。

こうした三角形のイチョウを見るたびに感じるのが、「外苑のイチョウ並木への憧れ」です。
多くの人たちが、イチョウ並木と言えば神宮外苑を思い起こすように、行政や業者のなかにも、あれがイチョウの理想形だと思われている方が多いように感じています。
それだけ、外苑のイチョウはインパクトのある姿をしているということですが、あのイチョウは刈り込みによって形をつくる人工樹形なので、自然樹形とは違います。
外苑の並木は、街路樹というよりは建築(絵画館)も含めた庭園の様相を呈しています。
あの特徴的な円錐形は、あの場所だから活きる形。
どこでもあの形にすればいいというものではないと思っていますが、あまりに有名なために、「イチョウ並木=外苑」という先入観が生まれているのでしょう。

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久喜市役所の構内には無剪定のイチョウが数本あり、街路樹のイチョウと隣り合っています。
人の手が入っていないイチョウを見ればわかりますが、本来、イチョウはきれいな円錐形にはなりません。
自然状態のイチョウは斜め上方に枝を伸ばす特性がありますが、そうしたイチョウの枝を無理に途中で切り詰めれば、木はまた同じ方向に伸びようと頑張ります。
日が当たれば枝は日が当たる方に伸び、それを切り詰めてもまた伸びる。
斜めに伸びるのがイチョウの自然で、日が当たる方に枝を伸ばすのが植物の常なのだから、その自然の姿を無視して切ると、木はまた元の姿に戻ろうとするのです。

自然樹形を目指す時に考えなければならないのは、木が持つ本来の特性を尊重してあげることだと感じています。
その特性を考えずに樹形を作りこもうとすると、木は自然な姿にはならない。
また、従来の剪定法には枝を水平に保とうとするきらいがあり、そのために、斜めに伸びた枝を途中で切り詰め、水平角度に仕立てようとするところがあります。
そして、枝の輪郭をきれいに揃えてしまう。

久喜市役所 自然樹形のイチョウ(久喜市役所構内の自然樹形のイチョウ)

自然状態の樹木には枝に長短の出入りがあり、輪郭がきれいに揃うことはありえません。
樹冠(輪郭)が揃ってしまうことの原因には、庭木のようにきれいな姿にならなければ手入れではないという、植木屋さんの意識もあることでしょう。
形が整った仕立て木などの剪定に慣れ、そのやり方が染みついていると、枝先を揃えないことがとても不安になるようです。
そして、つい細かく枝を切り揃えようとしてしまう。

久喜市役所前 円錐形の街路樹

久喜市のイチョウは昨秋から今冬あたりに剪定が行われたようですが、すでにほとんどの枝から10~30㎝程度の徒長枝が出ています。
枝先を細かく切ったり途中で止めたりする剪定は徒長や不定芽の発生を誘発することから、さらに枝が増え、落ち葉を増やすことにも繋がります。

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これは一昨年の冬に見た時の同じイチョウですが(反対方向から見ています)、この通りの場合、両側は市管理の施設であることから、車道側の支障だけをクリアできれば、木と木の間や施設側には広く枝を伸ばしてもいいように思います。

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これは能代の街路樹のイチョウですが、同じ木の剪定前と、剪定後1年経過したものです。
そのままにしておけば枝も伸びず樹形も崩れないのですが、通りの樹形を同じ大きさに揃えるため、自然樹形の木を三角形に切り詰めたようです。
この通りには自然樹形の木が写真の3本しかなく、他はブツ切りから再生中の木。
そこに残る自然樹形の木を手本として周囲の木を自然形に再生させていくべきところを、それとは逆のことを行ない、せっかくある自然形の木を人工樹形に変えているのは残念なことです。

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仙台市内のイチョウ並木です。
円錐形ですが、枝ぶりがとても柔らかい。
円錐形で自然樹形を目指すのなら、このぐらいの柔らかさはほしいところです。

片枝樹形 田園調布の銀杏

田園調布のイチョウです。
その街路に対応させるための管理樹形に「片枝樹形」というスタイルがありますが、制限のある街なかで自然樹形に近い姿を保つため、左右の枝の長さを変えています。
円錐形が絶対だと思っている人には、信じられないような形かもしれません。
「剪定=枝を同じ長さに切り揃える」という固定観念から抜けると、こうした樹形も生み出されます。

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能代市市民プール前のイチョウ並木です。
施設内の通路のため、それほど剪定が行われていません。
イチョウらしい、美しい樹形だと思います。

植木屋の世界には、「手を入れてこその庭木」で、「植木屋が形を作ってこそ木に価値が出る」という固定観念のようなものがあると感じています。
だから、自然状態の木にはあまり魅力を感じず、そこからどう作っていくかを考えてしまう。
そうした意識が、そのまま樹形に表れてきます。
料理などでも、素材が良ければ、手を加えるとかえって持ち味を殺してしまうということがありますが、樹木もそれと同じです。
本来の持ち味であるその木の樹形を殺さないためには、全体的に作りこもうと考えず、交通支障の枝を外すぐらいの気持ちで臨んだ方が、「樹木のもつ自然な樹形を目指す」ことに繋がるように思っています。

切ることばかりを考えるのではなく、どうしたら切らずにすむかを考えること。
自然をよく見て、自然樹形とは何かを考えること。
街をよく見て、街に合わせた姿を考えること。
先入観を捨て、固定観念にとらわれないこと。

外苑や従来の庭木剪定の呪縛から離れられた時、自然樹形管理のあるべき姿が見えてくるような気がしています。


街路樹の自然樹形について、地元紙に寄せた記事です。
都市型自然樹形を考える ―街路対応型樹形に関する一考察― 上」
[自然樹形維持の目的と街路対応型樹形の模索]

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