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秋田県能代市で作庭を行う福岡造園のブログです。 日々の仕事や活動等の最新情報を載せていきます。

地元紙寄稿「チャーミングな街路樹を探して~能代にもある街路樹の魅力~」

2013年11月24日
街の緑2(緑の提案と啓蒙:地元紙・専門誌掲載記事) 0
DSCN4471.jpg 地元紙 チャーミング2

昨日今日の北羽新報に拙文が掲載されました。
地元紙に掲載された市民の投稿を元に、能代の街路樹の魅力を探ってみようというものです。
市民の声が高まらなければ、行政は施策に活かせません。
せっかく市民が投げかけた問題提起や提案をそこで終わらせず、次に繋げて行きたいと思っています。
役割を持って植えられ、様々な恩恵を私たちにもたらしてくれている街路樹ですが、落ち葉や虫の付く頃にしか関心を持たれないというのも悲しい。
市民に愛される街路樹になるにはどうしたらいいか、どうすれば良くなるかを市民の皆さんと共に考える機会を持てればと思っています。

原文と写真を下記にご紹介します。
※紙面の都合で省略した写真も、文の説明としてこちらに載せています。
※紙面に載せていない参考リンクも付けています。

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チャーミングな街路樹を探して~能代にもある街路樹の魅力~

11月10日付の本紙、片村専一さんの「チャーミングな街路樹に」という投稿のタイトルに心惹かれました。
「チャーミング」は「魅力的」という意味ですが、表現がとても心地よく、新たな視点から街路樹を考えられる気がします。
街路樹が魅力的な存在になれば市民からも愛されます。さて、では具体的にどうしたらいいのか。
その手掛かりとして思い浮かんだのが、今春、のしろ市民まちづくりフォーラムで講師の加藤肇子さんが言われていた「無い物ねだりではなく今あるものに価値を見つける」という言葉でした。
もしかしたら、今ある街路樹にも、私たちが気付いていない大きな魅力があるかもしれない。
そんなふうに考えて、街路樹の魅力探しをしてみました。

魅力その1 街路樹の防災力
能代の街路樹の大きな特色は、イチョウの木が圧倒的に多いということです。
能代は、度重なる大火の対策として、保水力の高いイチョウを街に植えてきたのです。
阪神大震災では街路樹のある所で火災が止まり、崩壊する建物の支えになって人命を救いました。
東日本大震災でも、押し寄せる津波の中、街の木に登って難を逃れた方もいます。
災害は忘れた頃にやってきますが、街路樹もまた、備えあれば憂い無しの一つなのです。
市の緑の基本計画のアンケート結果には「街路樹は虫が付く」、「イチョウは街路樹として不適」という意見がありましたが、イチョウの虫を寄せ付けない特質もまた防災効果と言えるでしょう。
街路樹として不適なのでもなく、能代の場合は防災目的で植えられているということです。
市民を守るという使命を帯びた能代の街路樹は、能代のヒーローともいえる、とても魅力的な存在です。

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能代に多いイチョウの木

  
魅力その2 支障と共生する自然樹形
官庁街には電線が多く、それらに対応した樹形が随所に見られます。
これまでの能代では、電線に障る枝をブツブツと切るやり方が主流でした。
そうした剪定は不定芽を多発させ、枝数が増えて徒長するため、毎年の剪定を余儀なくされます。
枝が増えれば落ち葉も増えるため、それが苦情の原因になる。
枝を幹元から外せば徒長枝は出にくくなり、電線の振れ幅を確保する枝抜きを行えば電線との共生はできる。(写真1)。

官庁街のイチョウには直幹性のイチョウを他幹型に変え、電線を分けて伸びるようにしたものもあります(写真2)。
これは、果樹樹形のイチョウをヒントに、縦に伸びるイチョウを横張りのある姿にしたものです。
柔らかな枝先を残していることから、新たな都市型自然樹形の一つといえるでしょう。
自然樹形に維持するということは無駄に枝を増やさないということで、落ち葉対策にもなるほか、剪定頻度も下がるため、コストダウンにも繋がります。
支障や制約は知恵と工夫で克服できる。制約の中でも木を木らしい姿に保つ愛情と努力は、「気遣いの街能代」の大きな魅力です。
       
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     写真1         写真2

写真1 電線周囲を大きく空けた街路樹(能代市上町) 
写真2 電線を分けて伸びるようにした多幹型のイチョウ(同)

魅力その3 地域の自然や歴史との調和
けやき公園周辺の街路樹はケヤキですが、柳町付近の商業施設の植栽もまたケヤキで、同じ樹種で景色が繋がっています(写真3)。
民間施設と街路樹、公園がケヤキで繋がる景色は、統一感のある街並みをつくるという点で非常に優れた景観です。
ケヤキは土地に自生する潮風に強い木であることから、地域性のある土着の街路樹といえます。

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写真3 ケヤキで統一された、けやき公園周辺の景観 
※参考 繋がる景観 能代にあるケヤキの回廊

また、能代は市の木を黒松と定めましたが、能代駅から続く黒松並木は風の松原まで続き、その途中のお寺や民家の庭にも松が多いため、黒松の景色が連続します。けやき公園も風の松原も、歴史ある能代のシンボル。先人が残した優れた遺産を尊重し、それに合わせて街づくりを行っているのはとても素晴らしい。
地域の自然や歴史と調和する街路樹は、能代が誇れる大きな魅力です。

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松のある庭から、お隣の松、その向こうのお寺の松、風の松原の松林へと続く能代の景観

魅力その4 街路樹を楽しむ
五城目町ではケヤキのトンネルの下で祭りが行われ、人々が木陰の街路樹を有効利用しています(写真4)。
この写真を見て思いついたのが街カフェならぬ「道カフェ」。
歩行者天国にすれば、日頃は見ることのできない道路の真ん中から街路樹の景色を楽しめます。
「楽しむ」ということは大きな魅力。街路樹への理解を深め、新たな魅力を発見するための実験になるかもしれません。

中央線まで張り出すケヤキのトンネル。大きな木陰が町民の憩いの場となっている(五城目町役場提供)

写真4 市民生活と共生する街路樹(五城目町)

魅力その5 みんなで考える能代の街路樹
冒頭の投稿では、落ち葉の問題など、沿道住民の負担が指摘されています。
問題を解決しなければ魅力ある街路樹にはならず、苦情ばかり言っても根本的な解決にはならない。
行政がやるべきことと市民にできることは何か。そこから勉強する必要があると考えます。
一度、専門家を招いての勉強会や、市民参加の街路樹討論会を開いてみてはいかがでしょう。
問題点を洗い出し、魅力的な街路樹のあり方を、行政ではなく市民が主体となって考えるのです。
市民のための街路樹になるためにも、行政にはそうした場の提供をお願いします。

※参考 名古屋市 街路樹大討論会
たきかわ環境フォーラム 「落ち葉ってゴミでしょうか?パネルディスカッション 街路樹問題を考える

能代市二ツ井町 福岡 徹
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FUKU
Author: FUKU
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