庭の中の自然樹形

現場では今、雪囲いと並行して、落葉樹の冬季剪定を行っています(冬に行う理由はコチラで紹介しています)

落葉樹は、樹木の生理や景観、管理費などの面からも、自然樹形での維持が理想だと思っていますが、「自然樹形」とは、その木が置かれた環境に適応した姿であると考えています(「自然樹形」に関する考察はコチラ)。

20(岩壁という環境の中で生きる、奥入瀬渓谷の樹木たち)

山でも庭でも街路樹でも、樹木の周囲にはさまざまな制約があり、木はそうした環境に適応しようと、そこで自分が生きていくためにふさわしい姿になっていきます。
しかし、山の木が時間を掛けて環境に適応していくのに対し、人間社会と共生する庭の木や街路樹にはそうした時間が足りないため、本来、木自身が行うべき適応を、剪定などの人為で手伝ってあげることになります。
今回は、今行っている剪定の中からそうした例を紹介し、「庭の中の自然樹形」について考えてみたいと思います。

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丸い形になっていたイロハモミジを、自然形に導いていく剪定です。
道路に面した塀際に植えられた木ですが、上空や庭の中には支障となるものがありません。
樹冠(木の外観の輪郭)はそのままに混み合った枝を抜き、通行支障になる道路側のみを縮小します。

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剪定後。
イロハモミジは枝先を切ると樹形が乱れやすいため、あまり細い枝では切らずに、2、3㎝以上の枝で抜いていきます。
一度に切り過ぎると徒長枝ばかりが出るので、剪定量も加減。
今回は、全体の5分の1程度で抑えています。(剪定量の加減については、コチラで紹介しています)

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反対側から。
道路から出た枝は境界際で切るのではなく、もっと内側に引っ込めて、幹や太い枝の付け根まで下げます。
(越境する枝の対処は、コチラで紹介しています)

枝の混んだ木は、陽の光を求めて、様々な方向に曲がりながら伸びます。
人工的に整えられた木を1回の剪定で自然な姿に戻すのは無理なので、枝の伸長を見ながら、毎年少しづつ、素直で柔らかな枝ぶりになるよう手を加えていきます。

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こちらもイロハモミジですが、寒風で枝先が枯れるなどしたため、数年間手を付けずにいたところ、やわらかな枝が伸びて、モミジらしい優しい雰囲気になってきました。
葉が作る養分で木は体力を回復していくので、弱った木を切り込むと、さらに弱ります。
手入れの基本は、木の自然治癒力や再生力に任せ、それを見守ることが大切だと、このモミジの復活を見て、そう思いました。
今回手を入れたモミジも、数年後には、こうしたやわらかな姿になってくれると思います。

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建物前に植えたモミジです。
植栽後20年経過しましたが、その間、一度も手を入れていません。
制約の少ない所では、こうした姿が理想。
手つかずの木を見ると、樹木はもともとが自然な姿をしているのだということがわかります。
しかし、現実的に、人と暮らす庭の中では制約が存在し、そんな中でも木を木らしい姿にしてあげるにはどうしたらいいかと悩みますが、人間が剪定で木を作ってやろうという上からの意識ではなく、木自身が元の姿(自然形)に戻ろうとすることに対して、ほんの少し力を貸してあげるといった程度の気持ちで接してあげれば、木も自然とやさしい姿になっていくのではないかと思っています。
人の都合や時間ではなく、木の都合と時間に合わせてあげること。
人と樹木との共生に、一番大切なことだと思っています。

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こちらは、家の近くに植えられたモミジです。

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剪定後。
家付きの木で一番気を付けたいのが落雪ですが、こちらは屋根の形状から、庭側には直接の落雪はありません。
しかし、雪が多く積もると縁からはみ出た雪が落ちたり、2階の屋根から落ちた雪が滑り落ちたりするので、その圏内に伸びる枝を剪定します。
また、庭はアプローチの除雪をためておく場所にもなるため、落雪以外でも雪が盛り上がります。
雪が高く盛り上がると下枝が折れるので、そのような枝も、事前に外しておきます。

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渓流沿いの、杉林の前に生えるモミジ。
杉林の方には枝を伸ばせないため、空間のある渓流の上に枝を伸ばしています。
杉林を家だとすると、庭の中のモミジも自然界のモミジも、同じような形をしていますね。
これが、その環境の中で適した姿になるということだと思っています。

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内側から見た所。
建物側の枝は幹元から外し、横幅のある樹形にしています。

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表側から。
隣りには大きな黒松があるので、黒松を避けるように、空間の広いほうに枝を伸ばしてやります。
外壁に枝の影が映っていますが、横に伸びた枝が、窓に大きくかかるようになれば理想的です。

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こちらは、美郷町の坂本東学邸の露地のモミジですが、あまり剪定などもされていないようでした。
このぐらい横枝が張ると、モミジの枝がさわさわと風にそよぐ様子が、室内からも見えるようになるでしょう。

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次は、家付きに植えられたサルスベリです。
赤線部分が、落雪の支障を受ける部分。

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剪定後。
屋根の角部分に植えた木ですが、ここは落雪が少ないため、建物に障らないように内側に伸びる枝を外しています。
角部分を中心にして、斜め上方の上空に枝を広げていくイメージです。
自然形再生に変えてから4年目ですが、枝ぶりも、かなりやわらかくなってきました。

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先に紹介した美郷町の坂本東学邸の茶室ですが、やはり、屋根の角部分にモミジが植えられています。
樹高があるため、屋根の上にも枝がかぶさっていますが、屋根と枝との距離は1m以上ありました。
この距離が、屋根に乗る雪の厚みを表しているのでしょう。
庭においては、屋根に乗る雪や落ちる雪も、木の樹形に影響を与える条件となります。

建築限界 (1)

東京都江戸川区のケヤキ並木です。
赤線部分は、「建築限界」と呼ばれる空間で、この部分は車両通行の支障にならないよう、樹木の枝を伸ばしてはならないという制限区域です。
ここではケヤキがみごとなトンネルをつくっていますが、これは、この建築限界に入る部分だけを剪定し、それ以外の空間に枝を伸ばさせているということです。

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こちらは秋田県五城目町のケヤキ並木。
こちらもトンネルですが、江戸川区のケヤキよりも、もっと特徴的な形をしています。
赤い枠が「建築限界」で、矢印が、枝を伸ばしてもいい方向。

当地には、落葉広葉樹などでも、小さく丸く仕立てるといった風潮や迷信がありますが、そうした先入観に左右される必要は全く無く、樹木が自然に近い形で生きられるための、そこにふさわしい形を考えてあげたいと思っています。
人が暮らす所では様々な制約がありますが、制約を受けない空間の枝は、切る必要が無い。
四方の枝を一度に切り詰めて無理に小さくすると、木に異変が起こります。
人と同じく、伸ばせる所があるなら伸ばしてあげる。
そうすることで、木を健康に維持し、樹木に自然らしさを発揮させてあげることができると考えています。

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こちらは、植栽3年目の庭です。
建物際に、土地に自生する山の木を植えていますが、剪定で庭に合わせていくというやり方ではなく、木の姿や成長に合わせて、この場所に木を植えています。
後ろは壁で、前は道路という制約があります。

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こちらは、七座山の原生林(能代市二ツ井町)にある絶壁。
岩壁と、その下に生える木が、庭の様子と似ています。
絶壁の側は日が当たらないので、木は、空間のある上空や前方に枝を伸ばしていきます。

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奥入瀬渓谷の岸壁の前にある樹木。
この姿も、この家の木の様子に似ていますが、木同士が共生して、木立をつくっています。

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山と違い、道路側にはあまり枝を伸ばせませんが、上空には制限がありません。
伸ばせる方に伸ばしてあげるのが、この庭の環境に適応するということで、無理に切らないことで、木のらしさを出してあげることができます。
木が屋根の高さまで伸びれば、窓の前に緑のカーテンができ、緑の力によって家も涼しくなるでしょう。
そんな姿を目指して、剪定は最小限にしています。

ここでは、コナラの中にウメモドキやクロモジが入っています。
今は同じぐらいの高さですが、木々の自然に任せていれば、やがてコナラが大きくなり、ウメモドキやクロモジを包み込むようになるでしょう。
木同士が、木自身の力で空間を分け合い、共生していくようになれば、人が手を入れるのは、建物や道路、電線に枝が掛かる時ぐらいになるでしょう。
植栽法の工夫により、木を自然状態に近い形で維持するといった例です。


この庭のように、初めから自然樹形を維持していくのが理想ですが、家の建て替えや管理の引継ぎなどで、途中から木に手を入れる時もあります。
いろんなケースに合わせて、人と木がすごしやすい環境をつくってあげられたらと思っていますが、大切なのはやはり、木の自然性や生理を尊重するということで、それが、「庭の中での自然樹形」になると思っています。

今回は、庭の中の自然樹形とその管理法について、いろいろと考えてみました。

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