街路樹は何のために

先月のことですが、子供の通う小学校の前を通ると、通りのケヤキ並木に剪定が行われていました。
ケヤキやイチョウなど、落葉高木の剪定は葉の無い冬季に行うのが一般的。
この通りでも毎年この時期に剪定が行われていますが、今回は街並みの景観が一変するほどの姿になっていて、とても驚きました。

今年の7月、同じ場所から撮った写真です。
今回の剪定により、枝張りや樹高が大幅に縮小されたことがわかります。

こちらは反対方向から見たものですが、枝張りがあると、このぐらいの木蔭ができます。
今回の剪定では、支障にならない道路上空の枝も切り詰められたことから、来夏の木蔭の効果にはあまり期待できないでしょう。

ここは小学校の正門前であり、この並木は児童が登校する通学路です。
暑い夏、子どもたちを直射日光から守ってくれる木蔭を維持するには、ケヤキ本来の樹形を活かしたトンネル並木にするのが理想的。
並木はそうした状態に近づいてきていただけに、今回、これほどの樹形縮小が行われたことは、この学校に通う子供の父兄としても、とても残念でなりません。

この通りに小学校が建つ前、2008年の初夏に撮影した並木の姿です。
この道路は県道なので秋田県の管理ですが、もともとは旧二ツ井町が植え、その後の管理も町が行ってきました。
二ツ井町と能代市が合併して10年、、この並木の管理もその頃に移行したのでしょう、2008年の冬、このケヤキ並木はそれまでの自然樹形から、突如として丸刈りの強剪定に変わりました。
町が管理していたころは私自身もこの並木の剪定を行い、自然樹形を維持してきていただけに、とてもショックな出来事でした。



写真は、当時に剪定された時のものですが、樹木は一度に切り過ぎると異変を起こします。
樹木が通常の生命活動を行うには、活動の源となる養分をつくるための、一定の枝葉が必要です。
その限度を超えて枝を切ると、芽出しや紅葉の時期が遅れたり、徒長枝が大量発生して本来の樹形を崩したりなど、樹木の生理バランスに異常をきたすのです。
樹形をコンパクトにする時など、街路樹にはこのような剪定が行われることがありますが、樹木の生理を狂わせるばかりか、街並み景観も一変させるので、あまり良くないやり方です。
この並木は数年間枝が荒れ、ケヤキらしさを取り戻すには5年以上の月日が掛かりました。
街路樹は街並みの景観創成のためにあることを思うと、荒れた状態の木の姿を数年間も街なかにさらしておくことには、大きな憤りを感じます。
この10年、地元紙で緑のトンネルになってきたことを伝えたり( 「緑のトンネルを訪ねて2 ~ 能代にもある緑陰の道 ~」 )、沿道の方々への感謝を書いてきたりなど、並木があることへの理解を広める啓発を行いながら見守ってきましたが、また10年前に戻ってしまったのかと、返す返すも残念です。

今回の剪定では2008年時よりも小枝は残っていますが、このような樹冠(輪郭)をきれいに揃えていくやり方は「刈り込み」と呼ばれ、庭木など、丸い人工樹形の仕立て木などに行う剪定方法です。
枝を密生させて緑のボリュームをつくる庭木には向きますが、徒長枝を大量発生させることは落ち葉の量を増やすことでもあり、樹形も大きく崩れることから、街路樹などの落葉高木には向きません。
ケヤキは本来、山に自生する野木。
山野に生える木は、山野にあるような姿にしてあげることが理想です。
自然樹形維持を行う剪定方法を「透かし」と言いますが、ケヤキのような野木に対しては、透かしの中で最もケヤキらしさを活かせる、『野透かし』という方法が最適。
時々、自然樹形維持の方針のもと、透かし剪定で行っているとされるイチョウの街路樹などでも、細い枝先を途中で切っているのを見かけますが、枝の太い細いに関わらずブツッと切ったらブツ切りで、それは「透かし」では無く「刈り込み」。自然樹形とは呼びません。
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写真は、刈り込みのイチョウと野透かしのイチョウの比較ですが、刈り込みのイチョウが徒長枝ばかりなのに対し、野透かしのイチョウはほとんど樹形が乱れずに、穏やかでイチョウらしい姿をしています。
これは、枝先まで残した枝と、途中で切った箇所から新たに出た枝の伸長速度や伸びる方向の違いによるもので、自然状態で三角形にならないイチョウに対して無理に三角形のイメージで剪定していくと、そのような形になりたくない木が反発するということです。
これはケヤキも同様で、扇を広げたような形になるケヤキに対して円形のイメージで剪定していくと、そうはなりたくないケヤキ
は反発します。
枝先を整形的に整えるやり方は、剪定した時は枝の長さが同じで整っているように見えても、初夏には樹冠が乱れ、今の形は無くなります。
ツゲの木やオンコなどの仕立て木は毎年このような徒長枝が発生し、丸く刈り込んで樹形を維持しますが、徒長枝が出るということは木の生理にとっては異変であり、木が荒れているということで、なるべくそのような状態にならないように心掛けなければなりません。
一時的に枝を同じ長さに切り詰めても、何の解決にもならないのです。
街路樹の管理者は、そのことをきちんと理解した上で、剪定方針を立てなければなりません。
そして、この街路の景観をどうしていくのかのビジョンを持つこと。
そのビジョンのもとに剪定方針を立てるのが、管理方針というものです。

この写真は同じ並びにあるケヤキの9月上旬ごろのものですが、電線直下の4本の木が、太い枝の途中で無造作に切られていました。
この時は街路樹管理者の秋田県に出向き、どういった理由でこのような剪定を行ったのかの事情を聞いたところ、この枝切りについては把握しておらず、調査するとのことでした。
その後1か月経っても返事をいただけなかったことから再度出向いたところ、まだ事情が判明していないとのことで、おそらくは電線支障対策だと思われたことから、電線対応の好例(埼玉県 山口庭園さんの事例)と、秋田県の担当課にも参加いただいて開催した適正剪定の講習会の資料を持参し、樹木の生理に配慮した剪定を行うようお願いしてきていました。
その後1か月経過しても事情説明の連絡が無く、一度担当課に現場を見てもらおうと思った矢先に、今度は通り全体に丸刈りの剪定が始まった。
何度も足を運び、資料まで提供していて、何の説明も無いままにこのような事態が起きたことが非常に残念で無念で、その後に返事を催促しなかったことをとても後悔しています。

そして今回、9月に切り込まれた木に対してもさらに追い打ちとなるような剪定が行われたことから、私の怒りは沸点に到達。
担当課に事情説明を求め、現場に急行してもらうようお願いをしました。
担当者の方にこの並木の景観目標について尋ねたところ、、そうしたものを策定していないとのこと、また、本剪定の前に見本剪定を行うなど仕様確認の打ち合わせをしているかについては、行なっていないとのこと。
木の状態を見れば、事前確認が行われていないことは分りますが、これは、発注者と受諾者との間で行わなければならない責務です。
県職員は県内各地を移動するため、なかなか引継ぎが行われにくいことや、業者も入札で変わることから、街路樹の経緯や位置づけを知らず、その時だけの剪定になってしまう。
どちらかが意識を持ち、これまでの管理についての確認を行えばすむ話ですが、それが行われないと、こうした事態が起こります。
県管理の街路樹ではこうしたことが頻繁に起こり、能代地区の街路樹剪定でも剪定仕様の変更をしていただいたことがあります。
引継ぎをしっかりし、お互いが確認し合う体制をつくること。
まずはそこからではないかと思います。


剪定内容の変更後

五城目町の片枝樹形のケヤキ

二ツ井小の校庭から見たケヤキ並木
現地説明には小学校にも参加いただき、この並木の歴史や役割、位置づけなどを説明しながら、いろいろと意見交換を行ないました。
協議の結果、建築限界や越境等、特に支大きな障は見られないとのことだったので、「切る位置」と「切る量」、全体の景観などについて話し、
全体的な樹形縮小は行わずに越境の恐れのある歩道側の下枝のみを剪定すること、
その際も、枝を途中で切り詰めるとすぐまた越境支障を起こすことから幹元から剪定すること、
枝を切る際は切り残さずにカルスが再生しやすい角度とし、切り口には墨汁を塗るなどして目立たないようにすること、
この並木は離れて見ると背景の山波と呼応し山が連なるような稜線となっていることから、それがこの並木のなりたい姿でもあり、それを尊重して、樹高を画一にしないこと、
などを提案、五城目町の『片枝樹形』の写真を見てもらいながら、そのような姿をモデルとして、剪定内容が変更されました。

これは、この小学校に通う次女が今冬に郡市の社会科研究で発表した『ケヤキのいろいろ』という資料の中の一枚ですが、研究の中で取材した五城目町の『片枝樹形』のケヤキ並木を図にしたものです。
協議の中で、街路樹の全体像の具体的なイメージのようなものがあればとのことで、次女のこの資料をお見せしました。

(クリックで拡大できます)
こちらは、私が以前に作成し、街路樹展示で紹介していたこの並木のビジョンですが、この並木の位置づけと街路樹の経緯、問題等を図にしたものです。
秋田県でもこのようなものを作成し、剪定仕様書とともに、きちんとした引継ぎが行われればと思います。

次女の研究は、自宅のケヤキと自分の通う小学校前のケヤキの形の違いに着目、ケヤキはどのような所に植えられてどんな役割を果たしているのかを調べた物でしたが、これは、この並木について秋田県に取材した時のことをまとめたものです。
小学生が自分のふるさとの木について関心を持ち意識するように、管理者側もまた、同じようにふるさとの木であることを意識し、その地における街路樹のあり方を考えていけば、このような事態は二度と起こらず、より良い方向に動いていくでしょう。
担当課の方には、来月行われる『街路樹サミット』のチラシをお渡しし、ともに勉強しませんかとお誘いしましたが、ぜひこうした機会を利用されて、適正管理の道筋を作ることに活かしていただきたいと思います。
今回、丸刈りとなったケヤキは10数本ですが、この木たちはこれから、生きるために死に物狂いで枝を伸ばします。
樹形はしばらくは荒れますが、それは、木が生きたいともがく必死の形相。
元の状態に戻るには10年近い歳月が掛かるでしょう。
街路樹は何のためにあるのか。
今回のことの重みを受け止めて、同じことを何度も繰り返さないような体制を作らなければなりません。
管理者である秋田県には、そうした取り組みを、早急に行っていただきたいと思います。
※この並木については、以前のブログでも書いています。「森の学び舎」にある緑のトンネル
また、facebookアルバムの『ケヤキ並木の四季と変遷』 の方で、10年間の並木の歴史や関係資料をご覧いただけます。